自然保護を問いなおす

こんな人にオススメ!
・自然保護に興味を持っている人
・もっと深く環境問題を考えてみたい人
・自然が多い地域で政策を考えている政治家の人

 

自然と向き合うには、環境倫理学がオススメ!

今回は、環境倫理学について書いていきたいと思います。2014年7月3日のブログ、「「地域社会学」のススメ!~まちづくりや地域活性化を志す人は、この1冊を読んでみよう~」で、下記のように、アカデミックな情報を頭に入れておくことの大切さを書きました。

地域社会学で登場する用語を頭に入れておくと、「どのような問題が地域で起こっているか」、「どういった視点から議論がされてきたか」、「どのような解決策、あるいは、進行中の事例があるか」という、これまでにアカデミックな世界で行われてきた、議論の蓄積を現場に活用することができる。

そこで、今回は、自然を考える上でオススメの1冊を紹介します。自分も何十回も見返した良書です!

オススメ本『自然保護を問いなおす―環境倫理とネットワーク』

自然豊かな場所が多い日本。しかし、自然破壊が叫ばれ、自然とどのように生きていくのかが問われています。そのため、自然とのかかわり方をしっかりと考えることが大切になってきました。

その一方で、自然とのかかわりの問題はとても複雑で、問題の把握が難しいことも事実です。

そこで、自分がおすすめするのが、環境倫理学者の鬼頭秀一著の『自然保護を問いなおす―環境倫理とネットワーク』です。

この本は、「自然を守ろう」というようななんとなく使われ、私たちに浸透している考えに対し、「自然を守るってどういうことだろう?」という問いとともに、自然に対する人間の考え方の系譜を整理し、具体例とともに提示してくれています。

言葉を知ると概念ができ、議論を行うことができます。歴史を知ると未来を考えることができます。そのため、自然とのかかわり方を考える上で本書はとても役に立つと私は考えます。

たとえば、分かりやすく自然とのかかわり方を考える視点を付与してくれる言葉に、「社会的リンク論」というものがあります。「社会的リンク論」とは、人間と自然の間に次の2つのリンクがあり、ともにバランスを保たなければならないうものです。

1つ目は、人間と自然との間には、自然から農産物を手に入れて売るといったような、「社会的・経済的リンク」です。2つ目は、自然に神秘性や宗教観を感じるといったような、「文化的・宗教的リンク」です。この2つのリンクの中で私たちは暮らしているため、どちらかが欠けてもいけない、また、その中でその地域なりのあり方を考えていく必要があるという考えです。

このような言葉を知っているだけで、なにか1つの取り組みに対しても、「経済的な話しかしていないが、文化が損なわれてしまうことに関してどのように考えているのか?」、「文化のことばかりを言うが、そこで暮らしている人たちの経済活動はどう考えるのか?」といったように、建設的な議論ができます。

環境問題は議論が複雑であったり、日々たくさんの問題が噴出しており、本質がつかみづらいものでもあります。だからこそ、人間は自然とどのように関わり合ってきたのかという系譜を理解しておくことが必要だと私は考えます。

その地域独自の自然とのかかわり方を考える時期が来た

また、この本には、「白神山地の世界遺産登録が現地の人の生活を脅かすことにもなった」というような記述もあります。

多くの人たちが、良いものだと思っている世界遺産登録。しかし、その思想にはたとえば下記のようなアメリカ的な価値観が含まれています。これでは、日本の価値観とはそぐわない部分が出てくるのも当然です。

手つかずの自然がほとんどないといわれる日本の自然を守っていくための考えたかとしては、とくにアメリカで発達してきた原生自然を保護するという思想だけでは不十分である。(p233)

「立ち入り禁止区域を作るアメリカ的な考えで、山に入って生活をしてきた地元の人たちの行動を制限しても良いのか?それが自然保護のあり方なのか?」という議論が起きたことが書かれています。

こういったことは今後も起こりかねません。そのため、ものごとの表面的な部分しか見ることができないと、「日本人が日本人の首を絞める」、「地域のために良かれと思って行ったことが、地域の首を絞める」ことにもなりかねません。

自然は地域に根ざしているものでもあります。しかし、自然保護は世界的な流れでもあり、各地域がなんらかの動きをしなければならなくなっています。だからこそ、本書を読み、自然がどのように扱われてきたのか、今はどのような論点で議論がされているのか、そして、自分たちは今後どのように自然と向き合っていくかということを考えるきっかけにして頂けたらと思っています。

その地域独自の自然との関わり方が見つけられたなら、その地域は幸せな地域になると私は思っています。

今回のポイント!
自然と人間とのかかわりは切っても切り離せなくなっています。また、各地域でなにかしらの自然保護活動が行われるようになってきました。そのため、本書を読み、自然と人間との関係性の系譜を理解した上で、その地域独自の自然とのかかわり方を考えて頂けたらと思います。

※参考
書名:自然保護を問いなおす―環境倫理とネットワーク
著者:鬼頭秀一
出版社:筑摩書房
発売日: 1996 年
価格: 821 円