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「(自分から見たら)人生の成功者が、70歳を超えて大学に行って何を感じたんだろう?」と思って、購入した本です。

萩本欽一、2016年04月23日、『欽ちゃんの、ボクはボケない大学生。 73歳からの挑戦』、文藝春秋、1,512円、280ページ

新宿からの帰りの高速バスで読みましたが、分量もそんなに多くなくすぐ読めるのでオススメです。最近読んだ本の中では面白かったので、メモを記そうと思いました。

後述しますが、スルメのように何度もかみ砕いて自分なりに読むことで、成功の普遍的要素を味わうことができる良書かなと思いました。

就活生や、自分で何かをやられている方は共感するところが多いと思います。興味のある方は、是非ご覧ください。さらに、奇特な方は、一緒に議論しましょう(笑)!

サマリー

<文章について>
1.過度な押しつけがなく、読み手に解釈をゆだねるので読みやすい

2.若者に寄り添う気持ちで書いてあり心地が良い

<自分が特に印象に残った3ポイント>
A:包容力やゆとりを大切にできる人でありたいと思いました。また、無意識の内に人を傷つけるようなものごとの線引きをしていないか、自問しなければいけないと思いました。

B:人から頂く言葉に目を向け、その言葉を発して下さった人のために動くことで、新しい道が開けることがあります。そういった、「『言葉』についていく生き方」にも目を向けてみたいと思いました。

C:成功に過信せず、失敗を引きずらず、向上心を持って、前へ前へ進み続けていく姿勢が大切だと感じました。

詳細

1.過度な押しつけがなく、読み手に解釈をゆだねるので読みやすい

この本は入学後の学生とのやりとりを、時系列の出来事をベースに、「こんなことがあった。そのときに僕はこう思った」というような形で、淡々と進んでいきます。おそらく、「自分の行動を見て、いろいろな生き方ができることを知って欲しい。そして、みんなも人生を楽しんで欲しい」というような軸は通っています。
しかし、あくまでも時系列をベースにしてあるため、「○○をするべきだ!」というような、伝えたいことありきで章が構成されている訳ではないので、明確なメッセージを受け取ることはありません。各章にちりばめられている欽ちゃんの考えを拾い上げ、そこから何を学び取れるのかをスルメのようにくちゃくちゃかみ砕きながら、味わいながら考えていく楽しさがあります。

2.若者に寄り添う気持ちで書いてあり心地が良い

孫を見守るおじいちゃんのような暖かい気持ちが文章に出ていて、読んでいてほっこりとします。昔の成功体験をひけらかしたり、「最近の若い者は・・・」といった批判的な論調もありません。
若者たちの置かれている状況や感じている苦悩に理解を示し、そのような環境を作ってしまったことは自分たち大人の責任だと受けとめ、「では、今の世の中に何が必要か」と文章は展開されていくので、若者の自分としても気持ち良く読めました。

全体的な論調は上述の通りですが、その中で、自分が特に良かったと感じた箇所を3つ紹介します。「”」で囲んであるところは引用部です。

A:包容力やゆとりを大切にできる人でありたいと思いました。また、無意識の内に人を傷つけるような線引きをしていないか、自問しなければいけないと思いました。

” ひょっとしたらいまの若者たちは、ぼくが考えるよりずっと大人に気を遣って生きているのかもしれないな、って。
 周囲の大人が社会の中に知らず知らずのうちに線を引いて、「この仕事はいいね」「その仕事だったら、もうちょっと勉強すればもっといいのがあるんじゃないの」と無言のプレッシャーを与えてはないだろうか。
 だから、子供たちも親がほっとする選択をしようという気持ちに縛られて、就職活動を苦しみ過ぎてしまうところがあるんじゃないだろうか。
 その子がしようとしていることを、素敵だねと手放しで言ってあげる大人が少ない社会はチョット寂しい。
(中略)
 でも、大切なのはどんな仕事に就くかではなく、その仕事をどんなふうに楽しめるか。いかに仕事を面白く工夫できるかだよ。それこそが人生だからね。
 天真爛漫に将来の夢を語る子、若者が悩んだ挙句に進もうと決めた道。それらを「いいねー!」と全力で肯定してあげるのも、その意味で大人の一つの役目だと思うんだ。(pp189-190)”

B:人から頂く言葉に目を向け、その言葉を発して下さった人のために動くことで、新しい道が開けることがあります。そういった、「『言葉』についていく生き方」にも目を向けてみたいと思いました。

” で、ぼくにはそんなふうに物事を「嫌い」にならないようにするために、実践していることが一つあるの。
 それは、「仕事」ではなく、「言葉」についていくという生き方をするということだ。
 人は多くの場合、自分がしたいことをしたい、と思うものだ。だけど、自分が「何をしたいか」ではなく、「誰に何を言われたか」で物事を決める姿勢を一方で持つと、人生がずいぶんと楽になるものだ。
(中略)
 つまり自分が心地よいと感じた誰かの言葉に、導かれるように自分の行動を決めるんだ。(pp237-239)”
本書には、欽ちゃんが小学生時代に、ガキ大将に命令され先生にイタズラをして、怒られると怖がっていたときに先生が、「萩本君がやったの。男の子はこれくらいの勇気がないとダメよ」と言ってくれて、救われたという話がありました。
思いがけない対応に嬉しくなり、この先生のためになにかしたいと強く思ったそうです。そして、これまで授業中に全く手を上げなかった自分が手を上げると先生は喜んでくれるのではないだろうか、つまり、先生への恩返しができるのではと考え、質問に初めて「はい!」と手を上げたそうです。
ただ、質問内容は分からず、同時に「分かりません!」と答えると、教室が笑いに包まれたそうです。この経験が、コメディアンのきっかけになったと言えなくもないと、書かれています。
” 要するに恩返しというのは、もらったものを返すことだ。そんなふうに誰かの言葉に導かれて行動すると、嫌なことも嫌ではなくなる。これがぼくの生き方なんだね。(p242)”

C:成功に過信せず、失敗を引きずらず、向上心を持って、前へ前へ進み続けていく姿勢が大切だと感じました。

” 「長いあいだ第一線を歩く秘訣を教えてください」
 彼はそう聞いてきたんだ。
(中略)
 それで語ってみたのがこんな話。
 「どんな世界にいても、ぼくらは成功や失敗をする。そのなかで何かを続けていく秘訣は、成功したときに喜ぶ時間を短くし、同じように失敗したときも悲しむ時間を短くすることだよ」
 それは、プロフェッショナルであり続けるためのぼくの基本姿勢だった。
 一流の選手というのは試合に勝ったり記録を達成したりすると、「通過点です」とよく答えるよね。
 でも、本当はその「通過点」の一つひとつだって、彼らにとってのゴールなんだと思うんだ。ただ、彼らは次のステージを見据えているから、喜ぶ時間がとても短いだけなんじゃないかな。(pp198-199)”

何かを成し遂げた人から学ぶことも多いと実感した1冊でした。